山口神父、急死した船員さんのために房総沖で祈る

山口神父、急死した船員さんのために房総沖で祈る

世界経済を支える船員さんたちと祈った

カトリック横浜司教区船員司牧担当司祭 山口道孝

11月22日土曜日深夜、フランスの友人、ロイド神父からメッセージが入った。「友人が役員をしているCMA CGM社所有のコンテナ船BAALBECK号のフィリピン人チェフが心臓発作で急死した。クルーはキャプテン以下フランス人5人、フィリピン人19人で、皆動揺している。司祭に祈って欲しいといってきた。何とかならないか」。

翌朝、CMA CGM日本支社のスタッフからも電話があった。「山口神父様ですか。フランスの本社から電話番号を聞きました。ご協力いただけますか」世界三大海運会社のひとつCMA CGM社の素早い対応に驚きながら、何をすればよいのか疑問でいっぱいになった。日曜日で電話に直ぐ出られない中、何回かの電話を受け少しずつ状況がつかめて来た。

プサン港を出港し津軽海峡を通って、パナマ運河経由でヒューストンに向かっていたBAALBECK号。出港した翌日、コック長のランディー氏が亡くなった。フランス人の若いキャプテン以下、同胞のフィリピン人たちもショックを受け、司祭に祈って欲しい。葬儀ミサを希望しているのか祝福だけで良いのかも全く分からないまま「明朝8時半に、久里浜港東京汽船の乗船場所に来ていただけますか。久里浜港からタグボートで2時間程行った外海でBAALBECK号と落合い、短い時間で出来ることをやっていただければ」と頼まれた。それまでに、横浜や横須賀近辺で英語のできる司祭たちに連絡したものの誰も都合が付かない。翌日の全ての予定をキャンセルして、私が行くことにした。

翌朝、誰もいない閑散とした久里浜港東京汽船の乗船場所で、停泊中のタグボートを見つけた。キャプテン以下5人のクルーとポートメディカルサービスヨコハマの森下氏に迎えられ、私はタグボートに乗り込んだ。キャビンの中で、検死を担当する80歳代のドクターと中年のナースが打ち合わせをしていた。「出航します」キャプテンの合図で船は出港し、東京湾を南下。私も加わって打ち合わせをしていると、窓越しに城ヶ島が見えてきた。それから2時間、南南東に進み房総半島を抜けた25海里辺りで船は停止。360度、何もない洋上で錨を下すこともなく低速旋回しながらBAALBECK号を待った。数十分経っただろうか、11時方向に船景を見つけた。全速力でこちらに向かっているのが分かる。見る見る内にその強大な船体が、私たちの目の前に現れた。「大きなコンテナ船ですね」甲板で眺めていた森下さんと私は唸った。

7階建てのビルのような巨大な船から縄梯子が下ろされ、船の側面に固定された。こちらの船もあちらのコンテナ船もかなり揺れている。縄梯子によじ登るのも容易でなかったが、4人は無事BAALBECK号に乗船し、フランス人の航海士に迎えられて上階へと案内された。三層程上がったデッキにランディー氏の遺体が寝かされ、19人のフィリピン人と2人のフランス人が整列していた。洋上の強い風の中、静かに検死がはじまった。数分で「心臓発作です。間違いありません」ドクターの確認が終わり、私の出番が来た。遺体に灌水し、額と胸に十字架を切り、私の後ろに立っているフィリピンの船員たちに囁いた。「主の祈りを唱えようか」皆が頷き、タガログ語で主の祈りを歌った。

船内を灌水・祝別する

結びの祈りを終え、航海士に目配せすると、「この三人と船内を祝福してください」三人と共に、幾つかのキャビン、キッチン、倉庫、医務室、ランディー氏の自室などを灌水しながら小一時間回った。その間に遺体はタグボートに移され、ドクターたちの姿はもうなかった。最後に、デッキに残っていた船員ひとりひとりに按手をし、着替えるため控室に戻った。フランス人の航海士が付添ってくれたが、カトリックでないと分かって囁いた。「ごめんね、カトリックのスタイルで祝福してしまって」すると彼が直ぐに反応した。「大丈夫です。イスラム教徒だけど、同じ神様だから」と人差し指を上に向け、笑顔を見せてくれた。船上での全てを終え、森下さんとタグボートに飛び乗り、彼らに手を振った。そして、BAALBECK号は、全速力で私たちの視界から消えて行った。

若いキャプテンと共に

ご遺体をタグボートに移す

それから3時間、大桟橋に着くと、二人の検閲官がタグボートに乗り込んできた。一人はドクターで、こちらのドクターとやり取りし、遺体の確認をはじめた。そして、全ての検査と確認が終わり、遺体と私たちに上陸許可が下りた。長い一日が終わった。正に、”Mission Accomplished !” “任務完了“という気分だった。

大桟橋で上陸許可が下りたランディー氏のご遺体

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